大判例

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東京地方裁判所 昭和24年(行)115号 判決

原告 新田蚕種協同組合

被告 大蔵大臣

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対して昭和二十四年九月五日附でなした戰時補償特別措置法第六十條による別紙目録記載物件の讓渡申請不許可の処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めた。

三、事  実

「原告(旧有限責任新田蚕種共同施設組合)は昭和二十年三月二十日その所有の別紙目録記載物件を中島飛行機株式会社に対して代金十二万円で賣り渡すことを約したが、原告及び同会社との右賣買契約の履行をしない内同年四月一日から同会社は第一軍需廠の所管となり、右契約上の権利義務も軍需工廠皇国第三〇八五工場尾島分工場に所属するものとして国に承継せられることとなり、右代金は同月二十五日国から原告に特殊預金で支拂われ、右物件の引渡はその頃、その所有権移轉登記手続は同年五月いずれも原告から国に対してなされた。その後右特殊預金十二万円の支拂請求権は戰時補償特別措置法(昭和二十一年法律第三十八号)により戰時補償特別税の課税対象となり、内金一万円を控除した金十一万円は同税として徴收せられたが、同法が施行された昭和二十一年十月三十日当時国は現に右買得物件を所有していたので、原告は同二十二年一月二十日同法第六十條により国に対してこれが讓渡の申請をしたところ、被告は同二十四年九月五日原告に対して、右物件の所有権は原告と中島飛行機株式会社間の賣買により同会社に移轉し、第一軍需廠は右会社からその所有権を讓り受けたものであるから、原告は前記法條に所謂請求権者たる旧所有者には該当しないと言う理由で、原告の右申請を許可しない旨の処分をした。併しながら原告と中島飛行機株式会社間の賣買によつては單に代金支拂、物件引渡等の債権債務が発生したに止り、右物件の所有権の移轉は原告と国との間で前記の如く契約の履行がなされたのと同時に、原告から直接国に対してなされたのであるから、原告は前記法條に所謂旧所有者であつて、同條による請求権を有するものと言うべきである。又右法條の制定の趣旨は讓渡物件は、すでに国の所有に帰属しながら、しかもその讓渡の対價の請求権には戰時補償特別税を課せられた旧所有者を保護しようとするものであるが、本件において讓渡の対價たる特殊預金の支拂請求権について右税を課せられたものは前記の様に原告であつて、中島飛行機株式会社ではないから、原告は正に右法條による保護を受くべき資格を有すると言わなければならない。從つて、原告の前記申請は許可せらるべきもので、これを許可しない旨の被告の前記処分は違法であるから、原告は本訴において被告の右処分の取消を求めるものである」と述べ、被告の本案前の抗弁に対して、「戰時補償特別措置法第六十條による請求に対しては行政廳がこれを認容するか否かの形成的行政行爲をなすことによつて始めて私法上の権利の設定変更がなされるものと解すべきであつて、このことは同條が「請求により○○○○これらの者に対し、讓渡しなければならない」と規定している文辞に徴しても明瞭である」と述べた。

被告訴訟代理人は、「本件訴はこれを却下する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、本案前の抗弁として、「原告は戰時補償特別措置法第六十條による申請に対して被告が不許可の行政処分をなしたとして本訴においてこれが取消を求めているが、同條による適法な申請があれば、国はこれにより直ちに該当物件を讓渡すべき債務を負担するに至るのであり、この債務は自動的に発生し、これについて許可と言う様な別段の設権的行政処分を必要としないから、本件においては抗告訴訟の目的たるべき行政廳の処分は存在しない。原告が行政処分であると称する被告の行爲は單なる申請の拒絶又は不受諾の意思通知(準行政行爲)に過ぎないものであり、かゝる意思通知は、もし原告の申請が適法であればこれによつて当然発生する国の讓渡義務に何等の影響を與えるものでなく、從つて原告の権利はこれによつて何等毀損されるものではないから、かような行爲を対象としてこれが取消を求めることは許されないと言わなければならない。從つて、本訴は不適法なものとして却下せらるべきである」と述べた。

四、理  由

本訴の適否について考えると、戰時補償特別措置法(昭和二十一年法律第三十八号)第六十條第一項によれば、国、地方公共団体若しくは特定機関(以下單に国とする)に対して土地建物等を讓渡した場合において、その対價の請求権について戰時補償特別税を課せられたときは、国は同法施行の際現に当該土地建物等を有する場合に限り、旧所有者等の請求により、当該土地建物等を、現状において、これらの者に対し、讓渡しなければならない旨規定されているので、右條項による適法な申請がなされた場合においては、国はこれにより直ちに当該物件を讓渡すべき義務を負担するものであり、この義務の発生について、改めて許可というような設権的行政処分の存在を必要とするものではないと解すべきである。從つて、本件において被告がなした不許可処分は法律上原告の申請に対する單なる拒絶の意思通知にすぎず、それ自体原告に対して何等の法律的効果を及ぼすものではないから、原告が通常の民事訴訟において国に対して該当物件の所有権を主張し、直接これが引渡等を求めるのであれば格別、行政廳の処分でない被告の右処分を目的としてこれが取消を求める様な抗告訴訟を提起することは許されないと言わなければならない。しかるに、原告は本訴においては被告の右処分の取消を求めるものであるから、原告の本訴請求は権利保護の資格を欠くものであつて、不適法であると言わざるを得ない。よつて、他の点について審理をなすまでもなく、原告の請求はこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟特例法第一條、民事訴訟法第八十九條を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 菊地庚子三 田嶋重徳 大内恒夫)

(目録省略)

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